【院内SE必読】PHS終了後のスマホ導入、8割の病院が「まだPHS」の現実|失敗しない端末・ネットワーク選定の5つのポイント

「PHS公衆サービスは2021年に終了したのに、なぜうちの病院はまだPHSなんだ?」―― そう感じている院内SEは少なくないでしょう。
実は、2024年度の調査では医療機関の8割が依然として自営PHS(構内PHS)を使用しています。しかし、「旧スプリアス規格」のPHSはいずれ利用不可になり、端末や関連機器の調達も困難になりつつあります。
一方、スマートフォンを導入する病院も増えてきており、業務効率化やナースコール連携など、PHSでは実現できなかった活用が進んでいます。しかし、「安易に導入して失敗した」病院も続出しています。
今回は、院内SE(医療情報技師)として押さえるべき「PHS後継としてのスマホ導入」の実務ポイントを、最新データと失敗事例から徹底解説します。
PHS終了と医療機関のスマホ導入の現状
2026年現在、医療機関のPHS・スマホ事情は大きな転換期を迎えています。
【最新動向】
● 2021年1月末: PHS公衆サービス終了
● 2024年度: 医療機関の83.9%が自営PHS(構内PHS)を継続利用(電波環境協議会調査)
● ただし「旧スプリアス規格」は将来的に利用不可に
● PHS市場縮小により、端末・関連機器の維持管理が困難化
2024年度の調査では、業務用スマートフォンを導入している病院は約半数に達しました。しかし、導入している病院でも「PHSと併用」が多く、完全移行には至っていません。
業務用スマホを導入している病院のうち:
● 70%が4G通信を利用
● 約45%が5G通信を利用
● 55%がWi-Fiを利用
● sXGP(自営LTE)の利用率はわずか0.4%
2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用され、業務効率化・DX化が必須に。スマホは単なるPHSの代替ではなく、ナースコール連携、電子カルテ閲覧、グループチャット、勤怠管理、位置情報共有など、幅広い業務効率化のツールとして期待されています。
こちらの医療機関もiPhoneを導入して効率化を行なっています。現場の運用をイメージしてみましょう。
つまり、2026年以降、院内SEにはPHS後継としてのスマホ導入を成功させる実務スキルが求められています。
失敗しないスマホ導入の5つの実務ポイント

PHS後継としてスマホを導入する際、多くの病院が陥る失敗パターンがあります。以下、院内SEが押さえるべき5つの実務ポイントを解説します。
【①】「業務用端末 vs BYOD」の判断基準を明確にする
失敗事例: K県の中規模病院(200床)
コスト削減のため、職員の私用スマホを業務利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」を導入。しかし、私用端末のセキュリティ管理にMDMが必要で、結局、業務用端末を貸与する場合と同等の管理コストが発生。さらに、職員から「プライベートと業務の境界が曖昧で負担」と不満が続出し、離職率が上昇。
なぜ失敗したのか?
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」では、BYODであっても医療機関管理の情報機器と同等の対策が求められます。つまり、初期費用は削減できても、MDM導入・運用コスト、職員の負担増を考慮すると、必ずしもBYODが安いとは限りません。
また、メドコムの2024年3月調査では、医師・看護師の6割が業務中に私用スマホを利用している一方、7割近くが私用スマホの利用に抵抗を感じていることが判明しました。
院内SEがやるべきこと:
● 「業務用端末 vs BYOD」の比較表を作成
初期費用、管理コスト、セキュリティリスク、職員満足度を総合的に評価
● BYODを選ぶ場合、「MDM必須」「業務アプリのみ」など厳格なルールを策定
「管理されていない端末でのBYODは行わない」(ガイドライン第6.0版)
● 職員アンケートで「私用スマホの業務利用」への抵抗感を事前調査
抵抗が強い場合、業務用端末貸与を選択
【②】端末選定で「初期費用」だけを見て失敗しない
失敗事例: L県の精神科病院(150床)
「とにかく安く」と中古の一般向けAndroidスマホを大量購入。しかし、医療現場の過酷な環境(頻繁な消毒、落下、長時間使用)に耐えられず、1年以内に半数が故障。結局、買い替えで初期費用の2倍のコストが発生。
なぜ失敗したのか?
医療現場では、頻繁なアルコール消毒、24時間稼働、ナースコール連携でのバッテリー消費など、一般向けスマホでは想定していない使用環境です。特に「高耐久性」「長時間バッテリー」「防水防塵」が求められます。
院内SEがやるべきこと:
● 「医療用高耐久スマホ」の検討
京セラの高耐久スマホなど、医療機関向けに設計された端末を優先
● レンタルサービスの活用
初期費用を抑えつつ、故障時の交換対応が含まれるレンタルは医療機関向き
● 「3年間の総コスト」で比較
初期費用+故障時の修理・買い替え費用+MDM運用費を合算して判断
【③】ネットワーク選定で「Wi-Fiだけ」に頼らない
失敗事例: M県の回復期リハビリ病院(120床)
コスト削減のため、スマホの通信は「院内Wi-Fiのみ」で運用。しかし、病棟間の移動中にWi-Fiが途切れ、ナースコール着信が遅延。さらに、災害時にWi-Fi障害が発生し、院内連絡が一時不能に。
なぜ失敗したのか?
Wi-Fiは「広いエリアをカバーするための多額のコスト」「アクセスポイント間のハンドオーバー(接続切り替え)に弱い」「災害時の単一障害点リスク」があります。特に、移動しながら通話するナースコールとの連携では、ハンドオーバーの安定性が重要です。
院内SEがやるべきこと:
● 複数の通信手段を組み合わせる
4G/5G(キャリア回線) + Wi-Fi の冗長構成を基本とする
● sXGP(自営LTE)の検討
PHSと同じ1.9GHz帯を使用し、Wi-Fiより広域をカバー。ハンドオーバーにも強い。
国際親善総合病院では、既存PHSと相互接続しながら段階的移行に成功
● BCP(事業継続計画)の観点で通信手段を評価
災害時にキャリア回線が輻輳した場合、院内のsXGPやWi-Fiが機能するか検証
【④】ナースコール連携で「クラウドPBX」の落とし穴に注意
失敗事例: N県のリハビリ病院(100床)
「安い」との触れ込みでクラウドPBXを導入し、スマホとナースコールを連携。しかし、通話品質が不安定(音声遅延、途切れ)で、緊急時の対応に支障。また、インターネット障害時にナースコールが使えなくなるリスクが判明。
なぜ失敗したのか?
クラウドPBXはインターネット経由の通話のため、ネットワーク品質に依存します。特に、Wi-Fiの電波状況や帯域が不安定だと通話品質が低下します。また、インターネット障害時にナースコールが機能停止するリスクもあります。
院内SEがやるべきこと:
● クラウドPBXの「通話品質保証(SLA)」を契約書で確認
「音声遅延は何秒以内」「途切れ率は何%以下」を明記させる
● キャリアのFMCサービスも検討
クラウドPBXより通話品質が高く、キャリア網を使うため安定性が高い
● ナースコール連携の「フェイルオーバー(障害時の代替手段)」を用意
インターネット障害時、PHSや院内PHS(sXGP)に自動切り替わる仕組みを構築
【⑤】「段階的移行」でリスクを最小化する
成功事例: 国際親善総合病院
PHS全台を一度にスマホに置き換えるのではなく、従来のPHSとsXGPを相互接続し、段階的に移行。費用分散とスタッフの負担軽減に成功。通話の繋がりづらさも解消し、BCP対策としても有効。
なぜ成功したのか?
一度にすべてを置き換えると、初期費用の集中、スタッフの混乱、トラブル時の影響範囲が大きいというリスクがあります。段階的移行では、問題が発生しても影響を限定でき、フィードバックを次の導入に活かせる点が強みです。
院内SEがやるべきこと:
● 「フェーズ1: 管理部門」「フェーズ2: 外来」「フェーズ3: 病棟」など段階的計画を策定
最初に影響が小さい部門で試験導入し、問題を洗い出す
● PHSとスマホの「相互接続」を検討
内線番号体系を統一し、PHS↔スマホ間で内線通話できる環境を構築
● 各フェーズ終了後、「振り返り会議」を実施
現場スタッフからのフィードバックを収集し、次フェーズに反映
執筆者のコメント

「PHS後継」という視点だけでは失敗する ―― スマホは業務改革のツール
PHS後継のスマホ導入プロジェクトに関わった知人に聞いた話ですが、最初は「PHSが使えなくなるから、とりあえずスマホに置き換える」という発想で進めていたものの、実際に導入してみると、スマホは単なるPHSの代替ではなく、業務改革のツールだと痛感したとのことでした。
例えば、ナースコール連携では、PHS(W44×H135mm程度)に比べてスマホは画面が大きく、緊急度(緊急・一般・トイレなど)や患者情報を一覧で視覚的に把握できるようになりました。また、グループチャット機能で、医師・看護師・薬剤師がリアルタイムで情報共有できるようになり、「電話をかけ直す手間」が減りました。
一方で、失敗もありました。最初、コスト削減のため「Wi-Fiのみ」で運用しようとしたのですが、病棟間の移動中にWi-Fiが途切れ、ナースコールが遅延する問題が発生しました。結局、4G回線も追加契約し、「Wi-Fi + 4G」の冗長構成にすることで解決しました。
この経験から学んだのは、「PHS後継」という守りの視点だけでなく、「スマホで何ができるか」という攻めの視点を持つことの重要性です。
また、院内SEとして痛感したのは、「スマホ導入は技術だけでは成功しない」ということです。
端末選定やネットワーク構築は院内SEの仕事ですが、実際に使うのは医師・看護師・医事課・その他コメディカルです。彼らが「使いにくい」と感じれば、どんなに高性能なシステムでも活用されません。だからこそ、現場スタッフを巻き込んだ「試験導入」や「段階的移行」が重要なのです。
スマホ導入は、一度やったら終わりではなく、継続的な改善が前提です。最初から完璧を目指すと身動きが取れなくなります。まずは小規模に始め、現場の声を聞きながら改善を重ねる。そのサイクルが、結果的に成功への近道です。
まとめ
PHS後継のスマホ導入は「技術×現場」の両輪で成功する
PHS終了後のスマホ導入について、重要ポイントを振り返ります。
● 「業務用端末 vs BYOD」の判断基準を明確化 → 総コスト・職員満足度で評価
● 端末選定で「初期費用」だけを見ない → 医療用高耐久スマホ、レンタル活用
● ネットワークは「Wi-Fiだけ」に頼らない → 4G/5G + Wi-Fi、sXGP検討
● ナースコール連携で「クラウドPBX」の落とし穴に注意 → 通話品質SLA、FMC検討
● 「段階的移行」でリスクを最小化 → フェーズ分け、PHS相互接続
【重要な事実】
PHS後継のスマホ導入は、単なる「端末の置き換え」ではなく、ナースコール連携、電子カルテ閲覧、グループチャット、勤怠管理など、業務改革のチャンスです。
さっそく初めてみましょう!!
● 自院のPHS利用状況(旧スプリアス規格かどうか)を確認する
● 「業務用端末 vs BYOD」の比較表を作成し、経営層に提案する
● 先行導入している病院(国際親善総合病院、京都近衛リハビリテーション病院等)の事例を調査する
● 段階的移行計画を策定し、管理部門からの試験導入を提案する
「うちの病院はまだPHSで大丈夫」と思わず、この機会に見直しに向けて準備を進めましょう。
次回のPHS端末故障・調達困難が発生する前に、すぐにスマホ導入の検討を始めてください。
